Louis's Corpus

漫画「Final Phase」の登場人物『羽貫琉伊』の公式ブログです。 「Final Phase」はフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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ハンタウイルスについて②「日本とのかかわり」

こんにちは。羽貫です。

今日もハンタウイルスについて説明していこうとおもいます。前回のエントリーはこちら
今回は皆さんに少しでもハンタに興味をもってもらうために、ハンタウイルスと日本とのかかわりについて書いてみます。

そもそも日本にはハンタウイルスによる感染症は存在しませんでした。しかしユーラシア大陸全土には古くから旧大陸型ハンタウイルスによる様々な種類の出血熱が存在していて、割と有名だったのです。(なんでも10世紀の中国の文献にすでに記載されているらしい。)

この感染症は永らく病原因子が不明だったので各流行地においてその場所の風土病と考えられ、韓国では「韓国出血熱」、中国では「流行性出血熱」、旧ソ連では「出血性腎症腎炎」、スカンジナビア諸国では「流行性腎症」という風に、色々な病名で呼ばれていました。これらは全て旧大陸型ハンタウイルスのせいだったわけです。

出血熱とはなにかというと、読んで字の通り熱が出て出血する病気のこと。(有名なのはエボラ出血熱ね。)大陸型ハンタウイルスによって引き起こされる出血熱の一つ、腎症候性出血熱(HFRS : hemorrhagic fever with renal syndrome)にかかると、まず発熱、筋肉痛、頭痛、背部痛、腹痛、下痢症状などが前駆症状としてあらわれ、続いて、蛋白尿、白血球減少、肝胆道系酵素の上昇、点状出血(皮膚の表面に内出血の痕が赤く出てくる)などがあらわれます。

根本的な治療方法はないので対症療法が基本になります。病名からもわかる通り主に腎機能障害が主体なので、乏尿期には人工透析が必要になります。(後遺症として一生人工透析が必要になる場合もあるんだよ。)致死率は現在でも未だに5%と高いけれど、昔はもっと高い病気でした。

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日本とハンタウイルスのかかわりは日本が旧満州(現中国北東部)に満州開拓団を送り込んだことから始まります。開拓団の日本人が現地で大陸型ハンタウイルスに感染し、腎症候性出血熱にかかって次々と死亡したのです。
さらに1938年旧日本陸軍がこの地域に進駐した頃、「突然の高熱、高度の蛋白尿、出血素因等を主症状とする急性熱性疾患(つまり腎症候性出血熱)」が流行しました。以降、この地方の軍隊内では毎年この病気の発生が続き、トータルで約1万人の患者が発生、その10%以上が死亡するという惨事になりました。この病気は発生地の名前から孫呉(そんご)熱、虎林(こりん)熱等の名称で呼ばれ恐れられていました。(同じ頃アムール川対岸のソ連軍も同じ病気に悩まされていました。)

この「急性熱性疾患」は陸軍軍医団においてかなり熱心に研究さることとなります。その結果これらの風土病は「流行性出血熱」と命名して統一され、「マンシュウセスジネズミに寄生したトゲダニが媒介するウイルス性疾患」であると結論付けられました。ダニが媒介するというのは間違ってるけど、ネズミが原因と考えたのは合ってますね。

ちなみにことのとき流行性出血熱の研究に深く関わったとみられるのが悪名高い「あの部隊」です。そのためにハンタウイルスには暗いイメージがつくようになり、後にさまざまな陰謀説が唱えられるようになりました。
実はこのあたりの話は僕がハンタウイルスの研究に携わっている理由と関係しているのですが、ここではのべません。

そして戦後、こんどは日本でハンタウイルスによるアウトブレイクがおこりました。

1960年代には大阪梅田周辺の繁華街を中心として、ドブネズミが感染源と疑われる腎症候性出血熱が発生。当時はハンタウイルスが原因とはわからず、「梅田奇病」と呼ばれていました。限られた地区の住民119 名が発症し、そのうち2名が死亡しています。感染源としてネズミが疑われながらも、確認されるまえにアウトブレイクは自然消滅。1980年にハンタウイルスによるものであったこのが確認されました。
このアウトブレイクに関しても、前述の部隊のイメージと、なぜこの時期にこの場所にだけ出現したのかなどの理由が不明なせいで、様々な陰謀説が飛び交っています。

さらにその後、1970〜84年まで、全国の大学や研究機関の実験動物施設で実験用ラットを介した腎症候性出血熱の感染が発生。感染したラットが確認されたのは全国21の期間におよび126名が発症、うち1名が死亡しました。流行のあった実験施設では、施設の閉鎖され、全ラットの安楽死がなされました。

その後、日本国内での患者発生は認められていません。(そして僕の研究費は少ない。)しかし、ドブネズミや野ネズミを対象にした疫学調査では、日本全国20箇所の港湾地区で捕獲された齧歯類がハンタウイルスに感染していることが明らかになりました。今後何らかの原因で人と齧歯類の接触機会が増加した場合、ハンタウイルス関連疾患の再流行が起こる可能性が懸念されています。

ここで日本以外の話もしておきましょう。

ハンタウイルスの研究が飛躍的に進むことになったキッカケは1951年から1954年にかけての朝鮮戦争でした。このとき米軍ははじめてこの病気に遭遇し3000人以上が感染したのです。(感染症の世界には「白人が一人死ぬまでその病気は存在しない」といういやなコトバがあります。)
そして1976年に高麗大学のHo Wan Leeが自然宿主のセスジネズミから原因ウイルスの分離に初めて成功しました。このウイルスはセスジネズミの捕獲場所である「38度線近くを流れる漢灘江の名前(Hantaan river)」をとってハンターンウイルスと名づけられました。

腎症候性出血熱は決して過去の病気ではありません。中国では現在でも、医療当局が把握しているだけで年間約10万人の患者が発症していると言われています。(韓国では数百人、欧州全域では数千人程度の患者発生があると推測されています。)
流行地域を訪れる時はネズミがいるような場所はさけ、清潔な場所に寝泊まりし、ホコリを吸い込まないようにしてください。
ちなみに旧大陸型ハンタウイルスには現在不活性ワクチンがあり(米軍が開発した)、韓国、中国で発売されています。


今回のエントリーはここでおしまい。
多少はハンタウイルスに興味をもっていただけたでしょうか?

次回は対岸の火事だと思っていたアメリカ大陸がハンタウイルスに襲われる話をしましょう。



参考文献
げっ歯類媒介性人獣共通感染症としてのハンタウイルス感染症対策 有川二郎 ウイルス53(1),63-69,2003
腎症候性出血熱 有川二郎、橋本信夫 ウイルス36(2),233-251,1986
大阪市内に見られる流行性出血熱 田村雅太 生活衛生第10巻第4号,1966
急性腎不全 菱田明 日腎会誌2002;44(2):94-101

テーマ:医療・病気・治療 - ジャンル:心と身体

  1. 2011/11/15(火) 14:56:09|
  2. ハンタウイルスについて

プロフィール

羽貫琉伊

Author:羽貫琉伊
漫画「Final Phase」の登場人物。
架空の人間。
ウイルス、感染症、疫学の研究をする日々。
専門はハンタウイルス。

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