Louis's Corpus

漫画「Final Phase」の登場人物『羽貫琉伊』の公式ブログです。 「Final Phase」はフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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「グレート・インフルエンザ」ジョン・バリー

おはようございます。羽貫です。

あんまりハンタウイルスの話ばかりしているとあきられてしまいそうなので、そうじゃない話もしていこうと思います。といっても感染症がらみじゃない話を僕がしても何の価値もないと思うので、感染症にかかわる面白い本を紹介しつつ僕の話も織り交ぜて行きたいと思います。

というわけで『羽貫琉伊の本棚紹介第一回』はジョン・バリーの「グレート・インフルエンザ」です。
インフルエンザなら誰でも興味あるよね。もうすぐ流行も始まるし。



インフルエンザはおそらく僕らにもっとも身近な感染症でしょう。日本でも毎年様々な型の季節性インフルエンザが流行し、全国で1万人前後が感染、そのうち0.5%が亡くなります。近い将来、もっと致死率の高いインフルエンザによるパンデミック(感染症の流行が複数の国や地域に亘り、多くの患者が発生すること)が起こり、たくさんの人が犠牲になるのではないかと言われています。じゃあなんか対策をとれよって、それがなかなか難しいのです。

インフルエンザウイルスの特質は他のウイルスに対して進化がめちゃくちゃ早いところにあります。インフルエンザウイルスはHIVやコロナウイルスと同じRNAウイルスです。RNAウイルスは遺伝子情報のコピーの際エラーを起こしやすく突然変異して進化しやすいのです。(エラーの確率はDNAに対して1万倍〜100万倍高く、その分進化も早くなる。)さらにインフルエンザウイルスのRNAはゲノムが分節されていて、二つの異なるインフルエンザウイルスが一つの細胞に感染するとそのゲノムの分節が交換され、新しい混合ウイルスが出来ることがあるのです。つまり簡単に違う型のウイルスと遺伝子をシャッフルして新しいウイルスになることが可能なわけです。これはウイルスが種を飛び越えることを容易にします。こうして毎年新しい型のウイルスが野鳥で流行ったり、鶏で流行ったり、豚で流行ったり、ヒトに流行ったりするわけです。
毎年出回るインフルエンザワクチンは、この膨大なインフルエンザウイルスの中から、その年に流行りそうな株をWHOが数株選び、製薬会社がその推奨を受けて作ります。大量のワクチンの生産にはとても時間がかかり、実際に感染症が流行ってからでは製造が間に合わないからです。つまりWHOの推奨が外れるとそのワクチンは効きません。
さらにインフルエンザは抗ウイルス薬があるまれな病気ですが(いわゆる抗生物質は細胞膜に作用する薬なので、細胞膜がある○○菌には効くけれど、細胞膜のない××ウイルスには効かないんだよ。)その効果は限定的です。タミフル騒動は記憶に新しいですね。
このようにワクチンも抗インフルエンザウイルス薬も完璧に効く訳ではないインフルエンザですが、それが超致死率が高い株に進化しちゃっててものすごく流行っちゃったらどうなるのか?というのをじっくり読めるのがこのノンフィクション、「グレート・インフルエンザ」です。

「グレート・インフルエンザ」のインフルエンザとはいわゆる「スペインかぜ」のことです。このインフルエンザのは1918年~19年にかけて全世界で6億人が感染させ(およそ世界中の人間の3人に1人が発病)、4000~5000万人を殺しました。日本でも多くの死者を出し、皇族から劇作家、軍人などを手にかけました。
このインフルエンザはアメリカ大陸で発生し、第一次世界大戦の情報統制にまぎれ、兵士の移動とともに世界中にばらまかれたのです。「スペインかぜ」と呼ばれたのはスペインが当時中立国で、情報統制がおこなわれていなかったため、この感染症の存在がきちんと報じられたからでした。

もちろんインフルエンザウイルスはそれ自体が危険が存在です。この本の中には、適切なワクチンも、抗インフルエンザウイルス薬も、正しい医療知識もなく、危機を伝える通信手段も乏しい頃のインフルエンザのパンデミックがいかに強力に殺戮をおこなったか、という話が克明にかかれています。
(ちなみに僕はパンデミックが起こらない確率に賭けるより、副作用にかかららない確率に賭けて予防接種受けたほうがいいと思ってます。WHOがその年の流行を当てれるかどうかはわかんないけどね。)

しかし「グレート・インフルエンザ」はただ単に「怖い病気の話」ではありません。
「第一次世界大戦の終結を早めた。」「あと何週間か続いていたら文明が消えかねなかった。」
というようなパンデミックが起こると、社会というものはどうなってしまうのか、というのがこの本の最大のテーマです。
医学には公衆衛生っていう分野があってこれはWHOの言葉を借りると「組織された地域社会の努力を通して、疾病を予防し、生命を延長し、身体的、精神的機能の増進をはかる科学であり技術である」と定義されます。つまり簡単に言うと健康は病院と医者だけじゃ守れませんよっていうことです。
どういう医療制度にするか、食品衛生はどう管理するのか、上下水道はどう整備するのかなどが僕たちの健康にとってものすごく重要なのはわかりますよね。こういう分野もれっきとした医学なのです。
ちなみに僕の専門の疫学も公衆衛生の一分野です。この話はまた今度しましょう。

パンデミックに対抗するには公衆衛生の力が、つまりは社会全体の力が必要です。行政、軍人、学者、マスメディア、一般市民、それらがどの様に機能し、あるいは機能しなかったのか、誰に権限が必要で、誰が判断ミスをし、それによって一般市民が(あるいは可哀想な兵士たち)どうなったか、「グレート・インフルエンザ」ではつぶさに読むことができます。この本はインフルエンザに留まらず社会全体の危機管理の話でもあるのです。

ちなみに、危機に陥ったときの対応について、作者はものすごく正しいことを言っています。それは「正直になれ」ということです。相手のパニックを恐れ、現実を過小評価したデータを発表したり無意味なポジティブ発言をするのはかえって相手の恐怖をまねきます。(こういうことをするのは典型的なエリートパニックだね。)「相手を信用しなければ自分も信用されない」という基本原則を大切にしないと危機は乗り切れないのです。


グレート・インフルエンザ

分厚いけどすぐ読めます。





インフルエンザ21世紀 (文春新書)

こっちは瀬名秀明氏の本。
2009年の新型インフルエンザのパンデミックの時何が起きていたか、多くの人にインタビューしていて面白い。日本のパンデミック対応の成果、課題について知ることができます。

テーマ:書評 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2011/11/17(木) 08:51:07|
  2. 羽貫琉伊の本棚紹介

プロフィール

羽貫琉伊

Author:羽貫琉伊
漫画「Final Phase」の登場人物。
架空の人間。
ウイルス、感染症、疫学の研究をする日々。
専門はハンタウイルス。

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