Louis's Corpus

漫画「Final Phase」の登場人物『羽貫琉伊』の公式ブログです。 「Final Phase」はフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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ハンタウイルスについて③「アメリカでのアウトブレイク」

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おはようございます。羽貫です。
週末からちょっとアメリカに行ってCDCに顔をだしてきました。CDCとはアメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)の略です。CDCはアメリカ政府の機関ですが、パクス・アメリカの精神のもと、世界的に大きな影響力を持つ研究機関です。2003年のSARSのアウトブレイクの時に最初に警告を出したのは WHOではなくCDCでした。CDCのサイトを見ていただければわかるように、世界中の様々な疾病に目を光らせ研究を続けています。そしてここはハンタウイルスの研究者のメッカでもあるのです。なぜならばアメリカにおいてハンタウイルスがとてもホットなウイルスになってしまう事件があったからなのです。
前回は主に日本とユーラシア大陸で流行った旧大陸型ハンタウイルスについて説明しました。今回はハンタウイルスによる感染症は存在しないと思われていた新大陸で、ハンタウイルスのアウトブレイクが起きた話をしたいと思います。それは今からほんの少し前、1993年の出来事でした。


1993年5月、アメリカ南西部ニューメキシコ州で謎の肺病が大発生しました。
最初に注目された患者は、アメリカインディアンのナバホ族の若い成人男性でした。彼はもともと健康体だったにもかかわらず、インフルエンザという診断を受けたわずか数日後に頻呼吸(呼吸数が増加し、かつ呼吸が浅い状態。)におちいり、搬送先の病院で死亡したのです。彼の急激な死の原因は不明でした。ある医師が、この男性の婚約者が2−3日前に同様の症状で死亡したということ知り、これは新たな感染症なのではないかと疑ったことで、このアウトブレイクは「発見される」ことになります。その後行われた州全域での調査によって、新たに5人の健康な若者が同様の急激な呼吸障害をおこし、全員が死亡していたことが分かったのです。この感染症による死亡者のほとんどはARDS(急性呼吸窮迫症候群:重症の状態の患者に突然起こる呼吸不全の一種)などと診断され、情報の共有は行われていませんでした。
死亡患者は全員、重症の肺水腫(肺の実内部に自分の体液が染みだして溜まった状態。溜まった水分により呼吸が障害され、呼吸不全に陥る。)をおこしていました。そのため肺ペストやマイコプラズマ肺炎がうたがわれ検査がおこなわれましたが、これらの推測は否定されました。また感染者の発症した地域が広いことも謎を深めました。さらに最初の患者の数人がナバホ族だったことが報道されると、この感染症は「ナバホ病」などとよばれるようになり、ナバホ族への過剰な取材合戦や差別が起こりました。ナバホ族はより閉鎖的になり、調査はより困難になりました。おかげでナバホ族の居留地政府や現地の病院のスタッフがこの感染症の調査の必要性について訴えてまわらなければなりませんでした。
次の週数間のうちに患者から採取されたいくつかの検体がCDCに送られ、さまざまな種類の検査が行われました。そのうちの一つ、各地の出血熱を判定出来る「免疫グロブリン獲得検定法での調査」の結果、検体の血清はハンタウイルスに反応したのです。慎重に検証を重ねた結果、血清学的には今回の肺症候群がハンタウイルスによるものであることはが証明されました。しかし、アメリカ大陸でハンタウイルスに関連した感染症が確認されたことは今までありませんでした。この感染症は未知のハンタウイルスのものであると疑われました。

ハンタウイルスが、齧歯類により感染することは長年の研究で既に知られていたました。そこでまず、この地域に住んでいる齧歯類の種類が調査されました。1993年の7月から8月中旬にかけて、患者の居住地域のネズミが、屋内外を問わずに捕獲されました。(比較検討のために患者の居なかった地域のネズミも捕まえられました。)約1700匹のネズミが捕まえられ、解剖されて検体がCDCに送られました。その結果、罠でつかまった齧歯類のなかのシカネズミの血中からハンタウイルスの抗体が見つかったのです。シカネズミは一般的には屋外で生息していますが、郊外では人の家や納屋の中など巣をつくります。この時の調査で捕らえられたシカネズミの約30%がハンタウイルスに感染していました。

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シカネズミが今回のアウトブレイクの原因であるということをよりはっきり証明するために調査はまだまだ続きます。次のステップとして、感染したシカネズミと患者との関係を指摘するためのケースコントロール調査行われました。これは、患者の出た「症例群」の家と患者の出ていない「コントロール群」の家とを比較し、感染症の原因を探る調査です。結果として、「症例群」の自宅付近でより多くのシカネズミを捕らえたことから、患者はシカネズミとの接触がより多かったであろうことが予想されました。加えて、「症例群」の家では家の周りを整えて庭などに植物を植えている傾向がありました。これらの庭いじりの作業のために納屋や物置に出入りしたことでシカネズミとの接触機会が増加した、ということも予想されました。

1993年11月、CDCの研究チームは、New Mexico州の患者宅付近で捕獲されたシカネズミから採取された検体から培養されたウイルスを分離特定に成功しました。ウイルスは当初、このウイルスが発生した地域の名前を取ってムエルトキャニオンウイルス(Muerto Canyon Virus)と名付けられました。しかしムエルトキャニオンはナバホ自治区に二カ所あり、もう片方のムエルトキャニオンがナバホ族の悲劇の場所であったことから、後にシンノンブルウイルス(Sin Nombre Virus)という名称に変更されました。シンノンブルとは名無しという意味です。新しいウイルスの名前はそのウイルスが発見された場所の名前を取ることが多いのですが、このウイルスの名前になることを、どの場所の住人も嫌がったのです。
このウイルスにより引き起こされる新しい病気は、ハンタウイルス肺症候群 (Hantavirus Pulmonary Syndrome;HPS)と呼ばれるようになりました。
その後の調査研究により、このウイルスは以前からシカネズミに保有されており、古くからHPSの散発的な発生があったことが確認されました。これより以前に「謎の肺病」で死亡した患者の検体を調べたところ、いくつかの検体からシンノンブルに感染した証拠が見つかったのです。現在では1959年ユタ州で死亡した38歳男性というのが、ハンタウイルス肺症候群の証明できる最初のケースだったと考えられています。

このように、ハンタウイルス肺症候群はそれまで医療関係者の間で全く知られてなかったにも関わらず、実はナバホ族の間では「急性の経過をたどる肺病」として広く知られたものでした。彼らの医療的伝統では、これがネズミに関連しておこるものであり、「ネズミを排除することで病気を予防できる」ということが伝えられていたのです。さらに、伝染病の発生当初からナバホの占い師は天候が今回の感染症の原因だと訴えていました。科学者は彼らの訴えを真剣にとりあっていませんでしたが、現在では1993年のアウトブレイクの原因は前年度からのエルニーニョ現象であったと考えられています。エルニーニョによる降雨量増加により北米の砂漠地帯が緑地化したため、前年比10倍という齧歯類の爆発的な繁殖をもたらし、シカネズミとヒトとの接触機会が格段に増加したのです。

1993年以降、米国以外のアメリカ大陸諸国でもハンタウイルス肺症候群の発生は相次いで確認されるようになりました。カナダ、アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ウルグアイ、ブラジル、ボリビアなどで計1000 人以上の患者がハンタウイルス肺症候群に感染したと報告されています。またハンタウイルス肺症候群を引き起こすハンタウイルスは一種類ではなくBayou、Black Creek Canal、NewYork-1などの新種のハンタウイルスが相次いで発見されました。これらはひとくくりに新大陸型ハンタウイルスと呼ばれています。
ハンタウイルス肺症候群も腎症候性出血熱と同様に感染齧歯類の排泄物の吸引により感染が起こります。そのため対策は腎症候性出血熱と同じです。(ともかくネズミ、ネズミのいそうな所をさける。ホコリを吸い込まない。)新大陸型ハンタウイルスにはワクチンはまだなく、治療法も確立されていません。致死率は37%程度と未だ高いままです。

このようにハンタウイルスは旧大陸型、新大陸型ともにネズミからの感染のみで、ヒトからヒトへの感染は無いものと考えられていました。ところがその常識を覆すアウトブレイクが、1996年アルゼンチンで発生したのです。
次回のエントリではこのアウトブレイクの謎解きをしたいと思います。





ウイルスX―人類との果てしなき攻防

1993年のハンタウイルスのアウトブレイクについて本でしっかり読みたい方はフランク・ライアン氏のこちら本をどうぞ。ちょっと古いし、ウイルスと対決!みたいなタイトルが個人的にはあまり好きではありませんが、ハンタについてしっかり取材してあって、面白いですよ。ハンタの他にもエボラやエイズについてふれられています。



破壊する創造者―ウイルスがヒトを進化させた

同じくフランク・ライアン氏の最近の一冊。こちらはウイルスが生物の進化に果たした役割について書かれた力作です。
ウイルスが人類の敵だと思っているひとはぜひ読んで目から鱗落としてください。



参考文献
苅和宏明: ハンタウイルス感染症. モダンメディア (2004)
Zhenqiang Bi et al. : Hantavirus Infection. J Infect Developing Countries (2008)
Detlev H. Krüger et al. : Human pathogenic hantaviruses and prevention of infection. Human Vaccines (2011)
参考サイト
http://www.cdc.gov/hantavirus/

テーマ:医療・病気・治療 - ジャンル:心と身体

  1. 2011/11/22(火) 09:18:53|
  2. ハンタウイルスについて

プロフィール

Author:羽貫琉伊
漫画「Final Phase」の登場人物。
架空の人間。
ウイルス、感染症、疫学の研究をする日々。
専門はハンタウイルス。

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